No.3 検査用照明器具事件

知財高裁 平成30年(行ケ)第10181号

・権利:意匠

・ポイント:類似性・創作容易性

事件の概要

本件は、無効審判について請求不成立審決を受けた原告がその取り消しを知財高裁に求め、知財高裁が原告の請求を棄却した事件である。

本件意匠登録の元になる意匠登録出願は被告・シーシーエス株式会社により平成16年4月12日に出願され、意匠に係る物品を「検査用照明器具」とするものである。

 意匠登録第1224615号

本件斜視図 本件正面図 本件右側面図

本件平面図 本件底面図 本件左側面図

検査用照明器具とは何?

本件の意匠に係る物品の説明には次のように記載されている。

本物品は、工場等において製品の傷やマーク等の検出(これらを総称して検査という)に用いられるもので、LEDや光学素子を内蔵し(図示しない)、先端の光導出ポートから光を照射する。その光は、直接又は光ファイバ等のライトガイドを介して製品に照射される。

特許権

本件とは関係ないが、被告は本件の元になる意匠登録出願とほぼ同時期である平成16年4月9日に発明の名称を「光照射装置」とする特許出願をし、特許3653090号を取得している。

 特許3653090号

公開公報の要約書には次のように記載されている。

組み立てが非常に簡単で、その際に光源体の固定及び位置決めが同時にでき、放熱性にも優れるという利点を有しつつも、電気ケーブルの断線等を生じさせない光照射装置を提供する。

本件特許図

この特許に添付された図面を見ると、特許の対象である「光照射装置」と本件意匠登録の対象である「検査用照明器具」は同じ物と推測される。登録意匠の形態とは関係ないが、蛇腹状の大きな円筒の中にはLED、レンズを収容し、小さな円筒の先からLEDの光を放出するようになっている。
 アイデア(技術的な特徴)は特許で保護し、デザイン(見た目の特徴)は意匠で保護する という被告会社の方針であろう。

引用意匠

一方、この登録意匠に類似・創作容易であると原告が主張する引用意匠1,2,3は次のとおりである。

引用意匠1

引用意匠1

引用意匠2

引用意匠2

資料1

引用意匠3

引用意匠3正面 引用意匠3平面

引用意匠3左側面 引用意匠3右側面 引用意匠3使用状態

考察

ざっと見た感じだと、引用意匠1は斜視図しかない上に照明器具でないので比較対象としては不適である。引用意匠2はフィンの間隔が狭く、電源ケーブルが後端のフィンから引き出されているので非類似で、引用意匠3が本件登録意匠に最も似ている。とはいえ、引用意匠3にはケーブルの穴があるので、非類似と判断するのが常識的だろう。
 創作非容易性が最大の争点のように思える。
 本判決では、引用意匠1,2,3の順で類似性・創作非容易性が判断認定されているが、さきに引用意匠2,3に対する類似性・創作非容易性を見てみる。

引用意匠2・3との関係

引用意匠2,3はいずれも後端のフィンから電源ケーブルが引き出されいてるのに対し、本件登録意匠は放熱部とは異なる部分から電源ケーブルが引き出されている。このように電源ケーブルの引き出し位置の点で引用意匠と本件登録意匠とは大きく相違する。この点が類似性・創作非容易性においてキーとなっている。

類似性

類否性については次のように認定している。

ウ 本件意匠と引用意匠2との類否
 本件意匠においては,後方部材の後方に電源ケーブルが設けられていないのに対し,引用意匠2ではそれが設けられている。電源ケーブルの引き出し位置は検査用照明器具としての使用態様に大きく関わるから,この点は,工場等において製品の傷やマーク等の検出を行う業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者(需要者)が最も着目する点であり,これらの需要者にとって,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
 この点に関連して原告の提出する証拠(甲35)によれば,本件意匠に係る物品や引用意匠2に係る物品は,通常は,より大きな装置の一部として組み込まれて使用されるというのであり,その場合には物品の全体が観察されることはないことがうかがわれる。しかし,需要者が製品の美感を考慮するのは,主として当該製品を購入するか否かを判断する際であると解されることからすれば,物品の使用中その全体が観察されることがないという点は,上記の認定判断を左右しない。
 また,本件意匠の支持軸体の直径がフィンの直径の約5分の1であるのに対し,引用意匠2では約13分の10であり,本件意匠に比べて軸体が太いところに特徴があり,これらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠2とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
 したがって,本件意匠と引用意匠2とは類似しない。

着目点・美観の判断時

非類似という認定は結論としては妥当である。電源ケーブルの引き出し位置が需要者の最も着目する点であると断定するのは如何なものかとは思う。着目する点ではあろうが。この認定で改めて気付いたのは、意匠の類否判断をする時点は購入検討時であるという点である。原告は使用中にその全体が観察されることがないと主張したようだが。それを言いだせば、人の目につかない製品はそもそも意匠登録の対象外になり、模倣し放題になってしまう。ただしインターネットでの商品購入の機会が増えた現在においては、昔のように手に取って確認する作業はかなり無くなっている。手に取って確認すればケーブルは気になるとは思うが、検査用照明器具という製品の性質上、インターネット上の製品カタログを見て購入すると、さほど気にならないような気がする。しかし電源ケーブルの引き出し位置は意匠の類否判断において公知意匠との相違点ではある。

意匠法24条2項

意匠の類否は意匠法24条2項で次のように定められている。

第二十四条 登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。

需要者

当該2項では需要者としか記載されていないので、需要者が類似と判断するもの全ては登録意匠の範囲になる。ちなみに需要者とはどんな人なのかという論点がある。登録意匠の物品に関する知識が殆ど無いズブの素人であるとすると、類似範囲が広くなりすぎるし、その知識が豊富なデザイナーレベルの人であるとすると、類似範囲が狭くなりすぎる。ということで、登録意匠の出願時点よりも昔のデザインについてそこそこの知識がある人ということになる。
 上記認定では、工場等において製品の傷やマーク等の検出を行う業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者が需要者であるとなっている。
 ちなみに類似性の判断主体の需要者と創作非容易性の判断主体の当業者とは法律上の用語こそ違えど、判断者の知識レベルとしては実質的な差異を見出し難いように思う。

混同説・創作説

そういえば、意匠の類否において、混同説・創作説という説の対立があった。
 混同説は、「意匠の類否は、取引者・需要者を基準として、両意匠がよく似ていると感じることによって物品の混同を生じるおそれがあるか否かによって類否を判断すべきであるとする説」
 創作説は、「意匠法の第一義的な目的は、意匠の創作の保護にあるとし、当業者(デザイナー)を基準として創作の要部が一致し、物品の外観から生じる美的思想の同一性の範囲にあると認められれば類似する意匠とする説」
 両説の違いは、「取引者・需要者」か「当業者・創作者」という主体の違いと、「物品の混同」か「創作(価値)の同一性」かという類似範囲の考え方の違いである。
 現在は、創作説を基準として、判断主体のみが混同説を取り込んだ形になっていると考えられている。

創作非容易性

まあそれは置いといて、創作非容易性については次のように指摘している。

 ア 本件意匠と引用意匠2とは,前記(4)のとおり,ケーブル接続部の有無,フィンの枚数,軸体の太さなどにおいて明らかに異なっている。
 証拠(甲2,3)によれば,本件意匠出願の当時,検査用照明器具の電源ケーブルをどこから引き出すかについて,後方部材であるフィンの後端から引き出す形態は知られていたことがうかがわれるものの,フィン後端以外の位置から引き出す形態が知られていたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件意匠については,電源ケーブルをフィンの後端から引き出すこととせず,したがって,フィンにケーブル接続部分を設けない点において,意匠の着想の新しさないし独創性がある。
 また,本件証拠上,本件意匠登録の出願前に知られていた意匠の支持軸体の直径は,各フィンの直径の約12分の5という引用意匠3(対象をヒートシンクに拡大すれば,各フィンの直径の約3分の1という引用意匠1)が最も細かったものであり,本件意匠のように支持軸体の直径が細い形態が知られていたと認めるに足りる証拠もない。そうすると,本件意匠については,支持軸体の直径をフィンの直径の約5分の1という細い形状にした点においても,意匠の着想の新しさないし独創性がある。
 そして,少なくとも,前記⑷イの相違点①及び③に係る本件意匠を創作する動機付けは認められない。
 以上によれば,引用意匠2に基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易であったとは認められないというべきである。

部分意匠の権利範囲の解釈

あらためて登録意匠を見てみると、登録意匠では電源ケーブルは破線で示されており、実線部分である放熱部には示されていない。その結果、破線部分である電源ケーブルが実線部分以外の部位から引き出されていると認定されている。部分意匠の権利範囲の解釈ではこのように破線部分から実線部分=意匠登録を受けようとする部分の権利範囲を認定する手法がよく見られるように思う。確か三角錐形状の包装用容器でも同様の手法が用いられていたはずだ(平成27(ネ)10077 包装用箱事件)。
 ところで部分意匠を出願するときには実物をそのまま出願せずに、簡素化したほうがよいという見解がある。弁理士としては部分意匠を出願するときに、どこまでを簡素化するのが適切なのか悩ましいポイントである。
 今回の登録意匠についても、依頼時に例えば「電源ケーブルのない検査用照明器具も製品ラインナップに含まれているのだが、できるだけ少ない件数の意匠登録出願で広い範囲をカバーできるようにしたい」という風に依頼者に言われたら、代理人としてはどうしたものかと悩むであろう。
 それはさておき、デザインを無視したエンジニア的なアプローチをすると、電源ケーブルの引出し位置は技術的に可能な位置であればどこでも良いのであろうが、デザイナー的なアプローチとしては、こだわるポイントであると言えるのかもしれない。

引用意匠1との類似・創作非容易性

さて本件意匠と引用意匠2との類否・創作非容易性についての裁判所の認定は、本件意匠と引用意匠3との類否・創作非容易性についても同様に用いられている。
 しかしながら本件意匠と引用意匠1との類否・創作非容易性についての裁判所の認定は、異なっている。
 本件意匠と引用意匠1とを対比すると、まず登録意匠と引用意匠1の形態に相違点があることは誰もが瞬時に認識できる。そして登録意匠の物品は検査用照明器具であり、引用意匠1の物品はタワー型ヒートシンクである。ヒートシンクとは放熱部品のことである。物品が明らかに違ってるので、形態を含めた意匠の類否を論じるまでもなく、登録意匠と引用意匠1とは非類似と言いたい。それなのに裁判所の判断では、物品が非類似であるという理由だけで、意匠が非類似であると認定しない点が興味深い。ちなみにこの審決取消訴訟の前提となる審決でも同様の判断をしている。そして裁判所の判断では意匠に係る物品が非類似であっても、機能が同一であるという点を考慮して、次のように指摘している。

(1) 取消事由1(本件意匠と引用意匠1の類否判断の誤り)
(ア) 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる(意匠法24条2項参照)。本件意匠に係る物品である照明用検査器具は,工場等において製品の傷やマーク等の検出を行うために用いられるものであるから,本件意匠に係る類否判断における「需要者」とは,そのような業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者である。
 引用意匠1に係る物品は,電子機器用の部品としてのタワー型ヒートシンクであるから,それ自体としては,本件意匠の物品との間に同一性又は類似性はないが,意匠登録の対象である本件実線部分が検査用照明器具のうち放熱機能を有する部材であることから,更に本件意匠と引用意匠1との共通点及び相違点を検討する。

ここでは、意匠登録を受けようとする部分が放熱機能を有すると断定しているが、いかがなものか。意匠登録出願書類にはそのような記載は見当たらない。実際の製品が放熱機能を有するものであっても、放熱を必要としない程度で光を照射する使用態様もあってしかるべきであるし、長期に亘る保護期間(出願日から25年)のうちにLEDから発せられる熱が微量になる可能性もある。まるで先ほどの特許での放熱性にも優れるという利点があることを前提として放熱機能を認定しているような感じもする。そもそも美観を保護する制度である意匠法では、出願書類に記載されていないことを恰も当然のように認定するのはいかがなものか。ただしこのような認定は後述するが、許されるようだ。その上で次のように認定している。

イ 本件意匠と引用意匠1との共通点及び相違点
(ア)本件意匠は,3枚のフィンが垂直方向に並べて設けられているのに対し,タワー型ヒートシンクである引用意匠1では,4枚のフィンが水平方向に並べて設けられており,両意匠は,縦横の位置関係が異なる。
(イ)そこで,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみると,本件意匠と の共通点及び相違点は,次のとおりである。

上記文章のあとに続く共通点及び相違点の詳細は省略してある。

ところでフィンがどのような向きで並べられているのかは類似判断においてはそもそも関係ないのではないか。検査用照明器具は光の照射方向を考慮して使用するものである。たまたま本件意匠の正面図ではフィンが水平方向に並んでいるだけだろう。このような認定は無意味ではないか。ちなみに上記認定ではフィンを並べる向きを間違って指摘してあるように思うが。そして最終的には次のように認定している。

ウ 本件意匠と引用意匠1との類否
(ア)前記イ(ア)のとおり、本件意匠と引用意匠1は,視覚を通じて起こさせる美観が,縦横の位置関係からして,全く異なる。
(イ) また,仮に引用意匠1を右に90°回転させて対比してみたとしても,①本件意匠が,前端面に発光部のある検査用照明器具に設けられた後方部材(放熱部)であるのに対し,引用意匠1はそうでなく,汎用的なタワー型ヒートシンクであるという点,②本件意匠のフィンが3枚で,後端フィンの厚みが中間フィンの厚みの約2倍であるのに対し,引用意匠1のフィンでは4枚がほぼ同形同大のものであるという点,③本件意匠ではフィンの上下で厚みに差がないのに対し,引用意匠1のフィンは中央部の厚みが最も大きく,上下にいくにつれて次第に薄くなっている点,④支持軸体の直径が本件意匠では細いのに対し,引用意匠1ではやや太い点において相違し,これらの相違点が前記の共通点を凌駕するというべきであり,本件意匠と引用意匠1とでは,視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。
(ウ)したがって,本件意匠と引用意匠1とは類似しないというべきである。
(エ) よって,取消事由1は理由がない。

意匠の審査基準の新規性には次のように記載されている。

2.2.2 類否判断の手法
 意匠は、物品等と形状等が一体不可分のものであるから、対比する両意匠の意匠に係る物品等が同一又は類似でなければ意匠の類似は生じない。
 したがって、審査官は、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断する。
(1)出願された意匠が物品等の全体について意匠登録を受けようとするものである場合
① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
② 出願された意匠と公知意匠の形状等が同一又は類似であること

上記審査基準は全体意匠についての判断基準である。この基準からすると、類否判断の論理構造は、「物品の類似」についての類否判断と、「形状等の類似」について類否判断とを別々にし、どちらかが非類似であれば、意匠としては非類似であると判断するかのように読める。だが、よく読むと、「以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると・・・」となっており、「以下の何れかに該当しない場合、非類似と判断する」ではないようだ。
 部分意匠についての審査基準は以下のようになっている。

(2)出願された意匠が物品等の部分について意匠登録を受けようとするものである場合
① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
② 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能が同一又は類似であること
③ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること
④ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の形状等が同一又は類似であること
(注)「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。

上記基準の後に次のように記載してある。

2.2.2.2 対比する両意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能の認定及び類否判断
 対比する両意匠の意匠に係る物品等の使用の目的、使用の状態等に基づき、意匠に係る物品等の用途及び機能を認定する。
  意匠の類似は、対比する意匠同士の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であることを前提とする。
 上記の「意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること」の判断は、物品等の詳細な用途及び機能を比較した上でその類否を決するまでの必要はなく、具体的な物品等に表された形状等の価値を評価する範囲において、用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性があれば物品等の用途及び機能に類似性があると判断するに十分である。
 意匠に係る物品等の用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がない場合には、意匠は類似しない。

「意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること」の判断は、物品等の詳細な用途及び機能を比較した上でその類否を決するまでの必要はない、とは。用途及び機能に共通性があればいい、とは。言葉では何とでも言えるが、審査官の匙加減でどうとでもなりそうな表現である。本件の場合、形状等が似てるから放熱機能あり、と認定しても、良いことになる。

二段階テスト

ところで意匠の類否判断の「二段階テスト」という説がある。第一に「前提要件」として「物品の類似」について類否判断し、第二に「意匠の類似」について「物品」と「形状等」の要素を総合判断するという論理構造である。

重要なのは、第一段階のテストで物品が非類似のように感じても、第二段階のテストもしたうえで意匠の類否を判断することである。新規性の審査はどうやら二段階テストのようだ。 物品としては類似か非類似かグレーだなという場合だけでなく非類似の場合であっても形態の極端な類似により、意匠としては類似するという説を、著者:高田忠が『意匠』(有斐閣 1969年)142頁で以下のように述べている。

ところが一般的には,用途は同じであるが機能が異なるということで類似物品としてあつかわれ,または用途も機能も異なるので非類似物品としてあつかわれている物であっても,形状等によっては,用途のみならず機能も接近してきて,物品名から見れば,一般的には類似物品または非類似物品といわなければならないが,形状等からして具体的にはほとんど同一物品といわねばならない場合も生ずる。
 例えば徳利と花瓶,・・・

この説を二段階テストは許容しているように思える。
 物品が非類似であれば、意匠として非類似というストーリーは概ね通用する考えではあろう。しかし物品という概念からすれば非類似であっても同一・類似形態を有するものならば、物品(用途と機能)が実質的に同一や類似となるものがあるかもしれないと考えた方がよさそうだ。形態が同一・類似であっても用途と機能が接近しない場合は、概念だけでなく実質的に物品(用途・機能)が非類似と考えるということだろう。部分意匠制度の導入の導入以降は特に気を付けなければならないかもしれない。

そして本件意匠と引用意匠1とは非類似であると認定した後に、原告の取消事由2については、動機付けというワードを使って、取消自由2には理由がないと次のように言っている。ちなみに取消事由2とは「引用意匠1に基づく創作容易性判断の誤り」のことである。

 取消自由2について
 イ 検討
(ア) これを本件についてみると,複数のフィンが水平方向に並べて設けられている,「タワー型」の引用意匠1には,それらを垂直方向に並べることの動機付けを認めるに足りる証拠はないから,引用意匠1に基づいて本件意匠を創作することが容易であるとはいえない。
(イ)また,引用意匠1を右に90°回転させて対比した場合の前記((1)イ)の各相違点に係る本件意匠の構成が,周知のもの又はありふれたものと認めるに足りる証拠もないから,引用意匠1のみに基づいて当業者が本件意匠を創作することが容易であったとは認められない。
ウ よって,取消事由2は理由がない。

創作非容易性の理由はいまいち納得しかねる。そもそもタワー型ヒートシンクだけから検査用照明器具を創作することは無理ではないか。創作非容易性についての理由は、引用意匠2で用いた理由でもいいように思ったが。その理由とは、「そうすると,本件意匠については,電源ケーブルをフィンの後端から引き出すこととせず,したがって,フィンにケーブル接続部分を設けない点において,意匠の着想の新しさないし独創性がある。」のことだ。

タワー型ヒートシンクを本件登録意匠のような検査用照明器具の一部として使い、全体として一体化した形状にするときには、電源ケーブルをどう処理するのかを必ず設計しなければならない。この理由にすれば、共通した理由で創作非容易性を判断できたように思う。

なお本件訴訟の前に原告と被告は立場を入れ替えたりして、何件もの訴訟で本件と同一物品について争っていたことを知った。平成30年(行ケ)第10021号 審決取消請求事件。平成30年(ネ)第2523号 意匠権侵害差止等請求酵素事件。以上

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